鶴見臨港鐵道株式会社

◆一部路線変更

 大正12年8月30日付で東京湾埋立且ミ長 浅野總一郎から沿線進出各社に送付された「渡田潮田間請願鐵道貨物枝線新設計画書」には以下の通り記載されております。

一、計画概要
當社埋立地ト鐵道本線トノ連絡ニ付テハ僅カニ川崎驛ヨリ淺野セメント會社川崎工場ニ至ル間亘長二哩五十五鎖ノ単線貨物枝線布設セラレアルノミニシテ埋立地全般ノ運輸ヲ便スル能ハス因テ其中間ヨリ埋立地第四、五、六、七區後面ヲ通過スル亘長二哩四十鎖ノ単線貨物枝線ヲ請願布設シ以テ現在埋立地内各工場トノ連絡ヲ保チ尚将来埋立地内ニ達スル分岐線布設ノ前提タラシメントスルモノナリ

ニ、設計概要
現在布設シアル濱川崎貨物枝線ノ川崎驛起點一哩五十六鎖ヨリ分岐シ大略當社埋立地第四區乃至第七區ニ至ル旧海岸堤防ニ沿ヒ鶴見川左岸ニ達スルモノニシテ其設計ノ概要左ノ如シ

種別 単線貨物枝線
軌間 三呎六吋
線路亘長 二哩四十鎖
用地 二万二千四百四十四坪
盛土 一万二千三百十七坪
橋梁及溝橋 五ヶ所(総延長三百七十呎徑間四呎乃至九十四呎)
停車場 一ヶ所

三、建設費概算
総工事費 六十六萬圓
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四、建設費ノ負担
本計画ハ請願線ナルヲ以テ建設費ハ一切請願者ノ負担トナルモノ也本枝線ニ依リテ利益ヲ享クル者ハ當社埋立地第四、五、六、七區内土地所有者及本枝線附近ニ於ケル土地所有者ナルヲ以テ左記會社に於テ之ヲ分担スル事トシ・・・
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参考:哩=マイル:約1.609キロメートル
    呎=フィート:約30.48センチ
    鎖=チェーン:約20.1168メートル
    吋=インチ:2.54センチ

 上記設計概要に記載の通り、当初計画は濱川崎駅を起点とするのではなく、川崎駅を起点とする省線貨物枝線「哩五十六鎖ヨリ分岐シ」とありますので川崎駅から約2700mのところで分岐して埋立地に繋ぐ計画となっておりました。

 大正13年11月28日の重役会決議で下図の赤矢印で省線貨物線に連結する予定でしたが、「県道及海岸電気軌道線路横断ノ為メ県庁當局者等ト数次交渉シ結果當社ノ負担ニ帰ス可キ工事費多額トナルノミナラズ其工事困難ナルヲ以テ現在省線濱川崎停車場ヲ起点トスル事ニ変更致度候」とあり、県道と海岸電気軌道線を横断するには高架化するほかなく、自動車と違って鐵道線は少しであっても勾配がつくと運行に支障があるため高架区間が長くなる為、青矢印方面に線路を変更し、濱川崎駅で省線貨物線と連結することとなりました。こうして、濱川崎駅は貨物輸送起点駅となり、鶴見線全体のヤード機能を備え川崎鶴見工業地帯の心臓部としての役割を果たすこととなります。

 尚当初計画では、省線鶴見駅に連絡した後、新鶴見操車場まで延伸する計画でしたが、戦況悪化と矢向終点まで高架化することに伴う工事費増額による資金調達も厳しく、延伸は叶わず鶴見駅は旅客のみの発着となりましたので、貨物はすべて浜川崎に集結し、南武線方面以外の多くは浜川崎駅⇒川崎駅⇒鶴見⇒新鶴見操車場間のスイッチバック運転を余儀なくされたようです。これが解消されるのは戦後昭和26年新鶴見操車場⇔尻手間の短絡線開通まで待つこととなります。なお、川崎-濱川崎間貨物支線が廃止されたのは昭和48年10月となっています。

鶴見臨港鐵道線路平面図(大正13年10月4日より)


 なお、創業前の大正13年6月付で鐵道線路敷地実測するべく土地立入調査願を神奈川県橘樹郡田島町長及び埋立地進出企業各社宛てに送付しておりますが、田島町についてはその立ち入りの場所として橘樹郡田島町字田邊新田竹之下耕地及田島町小田竹之下耕地小田東耕地と指定しております。
 下の地図はその許可願控えに添付されたものですが、赤塗のエリアの実測を実施したようです。このエリアに濱川崎駅にあるようなヤード基地を設置する計画だったものと思われます。ここにヤード基地が設置できていれば浜川崎経由に比べると埋立地からの貨物はスイッチバックする手間が省けて運行が容易であったように思われます。